《普請石》

《普請石》

普請石
2019|黒御影石|30 × 40 × 2 cm
地区 : 中央区銀座

明治43年に発表された森鷗外の「普請中」は、官吏である渡邊と、彼がドイツにいた頃の恋人だった女が、京橋区木挽町(現・中央区銀座)で会食する短編小説だ。
渡邊と女が訪れる築地精養軒(後に関東大震災で焼失)は「普請最中」、すなわち改築工事中であり、大工たちが釘を打つ音や手斧をかける音が騒々しく聞こえてくる。この舞台設定が、近代国家を建国途上である明治期の日本のメタファーなのは自明だ。渡邊の言葉を借りれば、「日本はまだそんなに進んでいないからなあ。日本はまだ普請中だ」ということになる。
そんな東京及び日本は、令和になった今もなお「普請中」だ。祝祭と開発はコインの裏表で転がり続けている。何より、一見すると落成されたかに見える近代国家もまた、その内実において、前近代的な骨組みを手つかずのまま残していると感じる事柄は、枚挙にいとまがない。
ふと周りを見渡せば、多くのビルやマンションに、「定礎」と書かれた石板が埋め込まれていることに気づく。このプレートは、建物の竣工時に設置されるそうだ。しかし、この街にもこの国にも、〈完成〉なんてないのではなかったか───。であるとすれば本来、石板には「定礎」ではなく、「普請中」と彫られていなければならないはずだ。

普請石
2019|黒御影石|30 × 40 × 2 cm
地区 : 中央区銀座

明治43年に発表された森鷗外の「普請中」は、官吏である渡邊と、彼がドイツにいた頃の恋人だった女が、京橋区木挽町(現・中央区銀座)で会食する短編小説だ。
渡邊と女が訪れる築地精養軒(後に関東大震災で焼失)は「普請最中」、すなわち改築工事中であり、大工たちが釘を打つ音や手斧をかける音が騒々しく聞こえてくる。この舞台設定が、近代国家を建国途上である明治期の日本のメタファーなのは自明だ。渡邊の言葉を借りれば、「日本はまだそんなに進んでいないからなあ。日本はまだ普請中だ」ということになる。
そんな東京及び日本は、令和になった今もなお「普請中」だ。祝祭と開発はコインの裏表で転がり続けている。何より、一見すると落成されたかに見える近代国家もまた、その内実において、前近代的な骨組みを手つかずのまま残していると感じる事柄は、枚挙にいとまがない。
ふと周りを見渡せば、多くのビルやマンションに、「定礎」と書かれた石板が埋め込まれていることに気づく。このプレートは、建物の竣工時に設置されるそうだ。しかし、この街にもこの国にも、〈完成〉なんてないのではなかったか───。であるとすれば本来、石板には「定礎」ではなく、「普請中」と彫られていなければならないはずだ。