オイル・オン・タウンスケープ

Main visual

名称:オイル・オン・タウンスケープ
会場:NADiff Gallery
会期:2022年6月 9日~2022年6月26日

●概要

この度NADiff Galleryでは、アーティストの中島晴矢初の単行本の刊行を記念した展覧会「オイル・オン・タウンスケープ」を開催いたします。
中島晴矢は、1989年生まれ、法政大学文学部を卒業、美学校を修了した作家です。オルタナティブなコミュニティの中で現代社会や都市が抱える問題を、映像、パフォーマンス、立体作品等、あらゆるメディアを横断しながら風刺的に表現してきました。また、渋谷にあったシェアハウス「渋家」の立ち上げ、HIPHOPユニット「Stag Beat」のラッパー、建築家・キュレーターとのプロジェクト「野ざらし」のディレクター、記事連載の執筆といった、現代美術の枠に留まることのない活動をしており、この自由な領域横断的経験は相互に作用し、作品にも映出されてきました。

本展では、書籍『オイル・オン・タウンスケープ』の、作中に描き下ろされた油絵を中心とした展示を行います。オリンピックやパンデミックによって、東京の街が急激な変化を伴った時期に執筆された本作。町屋、渋谷、麻布など、変わりゆく東京の街に潜在した自身の原風景の記述と共に、戦前の東京を描いた洋画家・長谷川利行の軌跡を重ねあわせ、幾つもの時間軸が交差しながら作中の東京の街歩きが進行していきます。

中島は東京近郊のニュータウンを原風景とする出自から、東京や郊外の空間に自らの身体を介入させ、リアルな都市像を批評的にあぶりだす作品を幾つも手掛けてきました。本作もまた、街と自身の私的な関係性を描写しながら、現在の東京の風景を提示した作品といえるでしょう。中島の描く現在の東京画を、ぜひご高覧ください。

協力= 論創社

 



 本展で出品するのは、拙著『オイル・オン・タウンスケープ』(論創社)の連載時、各章ごとに挿絵のようなかたちで描いた油彩画だ。文章と油絵の双方を行き来しながら、約2年にわたって〈街並みの風景=タウンスケープ〉を書き/描き継いできた。それらをひとつに束ねたのが今回の書籍と展示である。
 『オイル・オン・タウンスケープ』は、個人的な思い入れが強い街々を足掛かりに、そこから引き出される種々の言葉を紡いだ散文だ。それゆえ、街歩きコラムでもあり、一種の芸術論でもあり、ごく私的な随想でもあるような、いわばキメラ的なテクストと相成った。舞台は荒川区の町屋から、板橋区の西台、渋谷界隈、市ヶ谷近辺の外濠端、麻布、港北ニュータウン、隅田川沿い、そして世田谷区の千歳烏山へと至る。西と東、過去と現在を跨いで語ったそれらの街は、結果的に、ほとんど東京に位置することとなった。もちろん、港北ニュータウンなどは神奈川県の横浜市に属するが、そこは「第四の山の手」とも呼ばれるエリアだから、スプロール状に拡大してきた東京の延長線上にあると言っていい。その意味で、これは〈東京〉を巡る足跡の記録でもある。
 そもそもウェブでの連載企画は、2019年末に開催した個展「東京を鼻から吸って踊れ」(gallery αM)を観た編集者から、執筆のオファーを受けてスタートしている。「東京を〜」はタイトル通り、オリンピックを目前にした東京の都市論がテーマだった。そのモチーフを引き継ぐようにして、2020年に入ってすぐ、このエッセイに取り組み始める。と、同時に〈東京〉が見舞われたのは、新型コロナウイルスによるパンデミックであり、東京オリンピック・パラリンピック2020(2021?)の狂騒だった。そうした状況に振り回され、右往左往しながらも、〈東京〉を眺め歩き、考えてきたことを結晶化したものがこの単行本であり油彩画である。
 油絵に関しては、エッセイでも初めに触れたように全くの素人だ。それでも2019年の段階で、自身の制作上のスタイルに硬直性を感じていたこともあり、「他意のない」状態で油彩に取り掛かった。なるほど、長谷川利行や「文人画」といった補助線は引いているものの、ほぼ丸腰で画布に向かっている。以降、自分がつくっているものが何なのか、はっきり言ってよくわからないまま、しかし確かに夢中になって、カンヴァスに筆を走らせてきた。画家・デザイナーの佐藤直樹氏は、それを「ブリコラージュ油彩画」と定義してくれたが、詳細は単行本の「解説」に譲ろう。さらに言えば、もとより本書の底流を流れるのは、油絵を媒介として、祖母の死をきっかけに大叔父の画家・杉田五郎へ辿り着く、〈家族〉のヒストリーでもあった。
 畢竟、書籍=展示『オイル・オン・タウンスケープ』は、ここ2年余りの〈東京〉におけるリアルタイムのドキュメントであり、私が今まで交わってきた街にまつわる記憶の物語だ。そして何より、これは〈現代〉に対する私なりのアンサーなのである。

中島晴矢

名称:オイル・オン・タウンスケープ
会場:NADiff Gallery
会期:2022年6月 9日~2022年6月26日

●概要

この度NADiff Galleryでは、アーティストの中島晴矢初の単行本の刊行を記念した展覧会「オイル・オン・タウンスケープ」を開催いたします。
中島晴矢は、1989年生まれ、法政大学文学部を卒業、美学校を修了した作家です。オルタナティブなコミュニティの中で現代社会や都市が抱える問題を、映像、パフォーマンス、立体作品等、あらゆるメディアを横断しながら風刺的に表現してきました。また、渋谷にあったシェアハウス「渋家」の立ち上げ、HIPHOPユニット「Stag Beat」のラッパー、建築家・キュレーターとのプロジェクト「野ざらし」のディレクター、記事連載の執筆といった、現代美術の枠に留まることのない活動をしており、この自由な領域横断的経験は相互に作用し、作品にも映出されてきました。

本展では、書籍『オイル・オン・タウンスケープ』の、作中に描き下ろされた油絵を中心とした展示を行います。オリンピックやパンデミックによって、東京の街が急激な変化を伴った時期に執筆された本作。町屋、渋谷、麻布など、変わりゆく東京の街に潜在した自身の原風景の記述と共に、戦前の東京を描いた洋画家・長谷川利行の軌跡を重ねあわせ、幾つもの時間軸が交差しながら作中の東京の街歩きが進行していきます。

中島は東京近郊のニュータウンを原風景とする出自から、東京や郊外の空間に自らの身体を介入させ、リアルな都市像を批評的にあぶりだす作品を幾つも手掛けてきました。本作もまた、街と自身の私的な関係性を描写しながら、現在の東京の風景を提示した作品といえるでしょう。中島の描く現在の東京画を、ぜひご高覧ください。

協力= 論創社

 



 本展で出品するのは、拙著『オイル・オン・タウンスケープ』(論創社)の連載時、各章ごとに挿絵のようなかたちで描いた油彩画だ。文章と油絵の双方を行き来しながら、約2年にわたって〈街並みの風景=タウンスケープ〉を書き/描き継いできた。それらをひとつに束ねたのが今回の書籍と展示である。
 『オイル・オン・タウンスケープ』は、個人的な思い入れが強い街々を足掛かりに、そこから引き出される種々の言葉を紡いだ散文だ。それゆえ、街歩きコラムでもあり、一種の芸術論でもあり、ごく私的な随想でもあるような、いわばキメラ的なテクストと相成った。舞台は荒川区の町屋から、板橋区の西台、渋谷界隈、市ヶ谷近辺の外濠端、麻布、港北ニュータウン、隅田川沿い、そして世田谷区の千歳烏山へと至る。西と東、過去と現在を跨いで語ったそれらの街は、結果的に、ほとんど東京に位置することとなった。もちろん、港北ニュータウンなどは神奈川県の横浜市に属するが、そこは「第四の山の手」とも呼ばれるエリアだから、スプロール状に拡大してきた東京の延長線上にあると言っていい。その意味で、これは〈東京〉を巡る足跡の記録でもある。
 そもそもウェブでの連載企画は、2019年末に開催した個展「東京を鼻から吸って踊れ」(gallery αM)を観た編集者から、執筆のオファーを受けてスタートしている。「東京を〜」はタイトル通り、オリンピックを目前にした東京の都市論がテーマだった。そのモチーフを引き継ぐようにして、2020年に入ってすぐ、このエッセイに取り組み始める。と、同時に〈東京〉が見舞われたのは、新型コロナウイルスによるパンデミックであり、東京オリンピック・パラリンピック2020(2021?)の狂騒だった。そうした状況に振り回され、右往左往しながらも、〈東京〉を眺め歩き、考えてきたことを結晶化したものがこの単行本であり油彩画である。
 油絵に関しては、エッセイでも初めに触れたように全くの素人だ。それでも2019年の段階で、自身の制作上のスタイルに硬直性を感じていたこともあり、「他意のない」状態で油彩に取り掛かった。なるほど、長谷川利行や「文人画」といった補助線は引いているものの、ほぼ丸腰で画布に向かっている。以降、自分がつくっているものが何なのか、はっきり言ってよくわからないまま、しかし確かに夢中になって、カンヴァスに筆を走らせてきた。画家・デザイナーの佐藤直樹氏は、それを「ブリコラージュ油彩画」と定義してくれたが、詳細は単行本の「解説」に譲ろう。さらに言えば、もとより本書の底流を流れるのは、油絵を媒介として、祖母の死をきっかけに大叔父の画家・杉田五郎へ辿り着く、〈家族〉のヒストリーでもあった。
 畢竟、書籍=展示『オイル・オン・タウンスケープ』は、ここ2年余りの〈東京〉におけるリアルタイムのドキュメントであり、私が今まで交わってきた街にまつわる記憶の物語だ。そして何より、これは〈現代〉に対する私なりのアンサーなのである。

中島晴矢